ナミアゲハの飼育観察記録

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昆虫を観察していると、不思議な生態や形態に驚くことばかりです。
昆虫は、およそ4億年前に、我々との共通祖先から枝分かれして、進化し、いまや、地球上には、知られているだけで、100万種、未知のものも含めれば、数百万種とも推定されていて、地球上の動物種のおおよそ80%を占めているのではないかと言われています。
 
小さな体だけに、脳も小さく、1立方ミリメートルにも満たない微小脳が、ヒトの脳に類似した構造をもち、視覚、臭覚、触覚、方位認識、他の個体とのコミュニケーションなどなど多彩な能力を備えています。中には、ヒトの巨大脳よりも優れた機能もたくさんもっています。
 
ご興味のある方へは、「微小脳」の命名者でもある水波誠著の「昆虫-驚異の微小脳」(中公新書・882円)をおすすめします。
 
昆虫は、変態をする生物ですが、中でも、蝶は、完全変態をします。
完全変態:卵→(孵化)→幼虫→(蛹化)→蛹→(羽化)→成虫 という形態をとります。蝉やトンボのように、蛹にならずに、幼虫から成虫になるのを不完全変態といいます。
 
これまでに撮影した写真を整理して、ナミアゲハ(アゲハ、アゲハチョウとも呼ばれます)の成長過程を示してみます。脱皮はほとんど未確認ですので、推測もあります。なお、同一個体ではありません。ご了承ください。
ナミアゲハは、孵化して幼虫になり、およそひと月前後で蛹になり、それから10日ほどで羽化して成虫になります。
 
蛹から羽化の瞬間
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1齢から5齢までのナミアゲハ(11頭(中、1頭はクロアゲハでした))です。これらは、皆、幼虫です。幼虫の段階で、4回?、脱皮して(脱皮するたびに+1齢)次第に大きくなり、終齢から蛹になるときと、羽化も脱皮ですね。
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ナミアゲハの食草は、ミカン科の植物(温州ミカン、夏ミカン、カラタチ、スダチ、キンカン、サンショウなど)です。上記の11頭は、スダチの枝にいましたが、ほかのナミアゲハ1頭、および、食草が同じクロアゲハ1頭とも温州ミカンで育てることにしました。
これは卵です(残念ながら、この卵は孵化しませんでした)。この卵は、温州ミカンに産み付けられていました。
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1齢幼虫です。
体長:4~7mmほど
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2齢幼虫です。尾部の白い斑紋がまだ不明瞭です。
体長:11~13mmほど
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3齢幼虫です。尾部の白い斑紋が明瞭になり、前足も腹足もはっきりしてきます。ミカンの葉の縁を口で、あたかも鉋(カンナ)で削るように食べます。食む音は、かすかに聞こえます。
体長:13mm~18mmほど
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4齢幼虫です。鳥の糞の擬態は、この段階までです。胸部と頭部が膨らんできます。
体長:18mm~22mmほど
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4齢、5齢の幼虫は、怒ると威嚇するためのオレンジ色の臭角を出します。その色合いは、齢によって、多少、異なるようです。臭角からは、ミカンの葉の匂いを臭くしたような臭いを出します。
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4齢から5齢への脱皮の途中です。
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5齢=終齢だと思いますが未確認です。ともかくこれは終齢です。体色は、緑色に変わり、明瞭な胸部の眼状紋もあらわれます。葉をよく食べるようになります。枝や葉を這うときは、胸部から頭部を出して、腹足と胸脚で、枝や葉の端を挟みながら、前進、後進します。なめらかな葉や飼育箱の側面を移動するときは、蜘蛛の糸のような網状の糸を張り、それに脚をかけて動き回ります。
体長:19mm~45mmほど
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蛹化(ようか・幼虫から蛹に変わること)の体勢に入った幼虫です。体長は急に短くなります。
体長:30mm~35mmほど
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一両日で、前蛹(ぜんよう)になります。自ら紡いだ白い糸で、体を支えて、ぶら下がります。
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前蛹(ぜんよう)から脱皮直後の蛹です。
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蛹化して、になり、イナバウアーのように体が反ります。成虫になるまで、このような状態で、10日ほど過ごします。白い糸を紡いで、2か所で、接着し、糸の輪に体を通して、右下の円内の写真のように、胸部と腹部の境界で、体に少し食い込んだような状態で、体を支えています。
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10頭の蛹の中、1頭だけが褐色で、残りは、緑色でした。周囲の物や植物に合わせた(色の)擬態でしょう。
体長:30mm~35mmほど
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6月25日12時前
9頭目の羽化です。
蛹化から10日目に羽化しました。
羽化のおよそ1時間前
翅、腹部の模様が見える
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蛹の上側を割って、頭部を出す
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13秒後
頭部の目、脚、口吻、触角が出て、胸部、翅の一部も見える
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それから、11秒後
体のほとんどが抜け出る
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以下は、7頭目羽化の経過です。
6月22日朝6時過ぎ
蛹化から9~10日で、羽化しました。
羽化直前の蛹です。
6時22分 蛹の体長:3cm
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13分後
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それから3分後
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それから3分後
体液が翅に満ちて、前翅の長さは、伸びきって6cm
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それから4分後の6時38分
翅は、その後、成熟とともに少し縮んで5cm(前翅)になる
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9時 開張:11cm ♀
12時過ぎに飛び立つ
羽化の立ち合いは、ここまで。
 
こちらは、別の個体ですが、夏型の♀の成虫で、キアゲハと似たような色をしています。
開張:13cm
 
いずれも羽化から3~6時間ほどして、翅が熟したあと、飛び立ちました。
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抜け殻です。胸部の上の方が裂けています。中には体液が少量残っています。頭から上の枝の方に脚が出ます。下にぶらさがっている小さなものは、5齢(終齢)幼虫が蛹化したときの抜け殻です。
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開張は、夏型で、♂は10~12cm、♀は11~13cmと個体と雌雄によって差がありました。ナミアゲハの体重は、6月14日の5(終齢)齢幼虫の体重が約1gでしたが、羽化後、体液が蛹の中に残ったり、排出する分があり、500mg程度でしょう。ある文献にも400~520mgという数値が掲載されていました。

およそ40日に及ぶ飼育観察で、ナミアゲハは、全部で、10頭が羽化し。それと紛れ込んでいて、食草も同じミカン科の植物であるクロアゲハも♂が1頭生まれました。
 
おわりに、ナミアゲハの珍しい吸水の1枚を載せます。
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今日の名言:
 
ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です 
朝永振一郎(物理学者、ノーベル物理学賞受賞)